質屋のヒミツ

質屋さんのいろいろなお仕事。

強盗

銀座の高級時計店が襲撃されたというニュースを、私はまだはっきりと覚えている。
あの街は、煌びやかなショーウィンドウと、張り詰めた空気の中に「安全神話」のようなものが漂っていた。
それが、バールを振りかざした数人の若者によって、あっけなく打ち砕かれた。
驚いたのは、あれほどの防犯設備が整っていたにもかかわらず、犯人たちがそれをものともせずに犯行に及んだことだ。
むしろ、あの事件以降、似たような強盗が増えているようにさえ感じる。
警備会社の対応の遅さも露呈し、「守られている」という幻想が、音を立てて崩れていった。
強盗は、だいたい下見に来るという。
カメラの位置、店員の動き、高額商品の配置。
「この品物、気になっちゃって。撮影してもいいですか?」と、客を装ってスマホを向ける者もいる。そんな輩がいるから、撮影禁止の店が増えるのも当然だ。


犯行に使われるのは、店内は強化ガラスのケースが多いためか、バールやハンマー、金づち。冬なら目出し帽をかぶって堂々と入ってくる。
人通りの少ない店が狙われるのが常だが、銀座のような人の波が絶えない場所での犯行には、さすがに驚いた。
実行犯は「闇バイト」で集められた少年グループだという。今も裁判中だろうか。なんとも、世知辛い時代になったものだ。


質屋や買取店では、怪しい客を見分けるための「常識」がある。
たとえば、地元ではないナンバーの車や、レンタカーでの来店。関東なのに関西弁の客。身分証の住所。距離を感じる端々から疑うという常識だ。そこいらの知識は質屋さんは警察並みに履修していると聞く。
特に質預かりは、利息を払って何度も通う必要があるため、遠方の店を選ぶのは不自然極まりない。
キャッシュレスが進んだ今、「出先で金がない」という言い訳も、どこか嘘くさい。
つまり、身分証の住所から遠く離れた地方で質屋を訪れれば、それだけで疑われる可能性がある。通報されることはなくとも、遠くから来た客というだけで、「怪しげな客リスト」に記録され、場合によっては警察に情報提供されることもあるという。

ちなみに、盗品をわざわざ質に入れて預けていき、そのまま流すのを、専門用語で「置き込み」と言うそうだ。他にも色々言い方はあるそうなので、皆さんも質屋に知り合いが出来たら聞いてみると良い。特に得した気分にはならないけれども。

というわけで、県をまたいでお店に通っているそこの貴方。色々理由はあるのだろうが、なるべく近くの店を利用することをお勧めする。そして何かの時に「参考人」として呼ばれたくなければ、行動にはくれぐれも注意した方がいい。そうそう、運転してきたのに免許証を出さない人も、訳ありなのかと勘繰られる元になるそうだ。素直に全部さらけ出して、お金は借りるのが良しである。


強盗が入れば、設置している非常ベルが鳴り響く。
だが、警察や警備会社よりも野次馬の方が早く駆けつけることもある。破壊されたショーケース、奪われた品物、怯える近隣住民。保険に入っていれば損失は補填されるかもしれないが、元に戻すには時間がかかる。
ガラスの修理、警察の事情聴取、スタッフのケア、シフトの再編成……。目に見えない損害の方が、むしろ重い。

盗品は詳細に記録されているため、全国に情報が回る。どの店も盗品は買いたくない。何しろ警察に没収されるのは損しかないのだ。意地でも買いたくないはず。
「遠くの店ならバレない」と思っている犯人がいたとしても、いずれ手が後ろに回る日が来るだろう。


だが、滅多にあることとではないのだが、最も恐ろしいのはスタッフの中に犯人の内通者がいる場合だ。事件当日だけ警備が手薄だったり、警報が切れていたり、カメラの電源が入っていなかったり……。
警察によれば、こうしたケースは証拠が乏しく、検挙が難しいという。
経営者がスタッフに内緒でカメラを設置するしかない。身内を疑うのはつらいが、やむを得ない。なんとも、情けない話ではある。


背任行為の背景には、経済的困窮、職場の緩さ、そして上司や会社への報復感情があるという。
特に金融業に従事するスタッフには、通常の販売員よりも高い手当が必要だ。さもなければ、横領や着服に走るリスクが高まる。販売員は正社員でも、女性の場合年収300万円に届かないことも多い(厚生労働省調べ)。金融業で身内ではない他人を働かせるなら、40代で最低400万円は必要だろう。

ちなみに、買取店の方が質屋よりも給料は高い傾向にある。これは多分、質屋は流質期限という待期期間があるせいかなと思われる。

買取店や質屋には、駐車場から店内、カウンター、さらには見えない場所にまでカメラが設置されている。
そのため、店の近くで事故が起きた場合、警察から映像提供を求められることもある。
コンビニやパチンコ店も同様で、何かあったときには確認してみるといい。

カメラがあっても守ってくれるわけではないので、証拠をつかむのは後にして強盗に出くわしたら、まず逃げることが第一だ。

保険がかかっている以上、命をかけて戦う必要はない。素人が武器を持っている輩に立ち向かおうなどと思わないことだ。逃げるが勝ち。それが、現実的な選択である。

なんでも、プロは戦おうなどとせず、盗んだらさっさと逃げる一択に対し、素人はうろたえた挙句、追っ手を倒そうと思い向かってくる、もしくは倒してから逃げようなどと思う輩がいるそうだ。店が無事でも体を痛めてはこの長い人生、損失の方が多くなる。

特に給料が安いと嘆いている皆さん、結局は他人の店です。さっさと逃げましょうや。

…続く