質屋のヒミツ

質屋さんのいろいろなお仕事。

紅茶の国より

今回は、スリランカから来日したある家族の話。
彼らは向こうで茶園を経営していたが、政治的な混乱もあり、日本へ渡ることを決意したという。大家族で、一人あたりおよそ50万円を5~6人で借りにきた。そんなにお金がかかるものなのかと不思議に思いながらも、持参した貴金属を確認しつつ貸し出したそうだ。
スリランカ人に限ったことではないのかもしれないが、彼らの名前はとても長い。質札に書くのが大変なので、店の都合で一部を省略させてもらったという。
以前、親日家のスリランカ人と日本語で話したことがある。彼によれば、スリランカの名前は、家系・出身地・父の名・個人名・姓を、星の導きに従って組み合わせるという。血と土地と宇宙の調和を映す構造なのだそうだ。
名前の冒頭には、家系や出身地を示す言葉が置かれる。 たとえば「パッレワッテ」や「ガマラララゲ」など。それは地名であり、家の名でもある。 この者はどこから来たのか。どの家に連なるのか、名前でそれがわかるのだそうだ。
スリランカでは、子どもが生まれると占星術師に命名を依頼することが多い。生まれた時刻、場所、日付をもとにホロスコープが作られ、星の配置からその子にとって吉とされる「音」や「文字」が選ばれる。
多くの名前には父親の名が含まれている。それは敬意であり、継承の証でもある。父のほかに、尊敬する親戚の名が入ることもあるそうだ。
日本でも、かつては偉いお坊さんに名付けてもらうことがあった。スリランカでは、占星術が今も日常的に活用されており、有名な占星術師はとても大切にされている。
名前の由来だけでも十分に興味深いが、さて、そんな彼らにお金を貸したB氏は、「本当に返せるのだろうか」と少し不安に思っていた。案の定、「少々待ってほしい」との連絡が入った。
当時、スリランカ財政破綻寸前で政情も不安定。国外への資金持ち出しに制限がかかってしまったという。オーナーに相談したところ、「まあ、待ってやれ」とのことで、2~3か月待つことに。その後、彼らはギリギリ帰国して、なんとか受け出していった。茶園を手放して売却し、資金を作ったのだが、政府の許可がなかなか下りず、苦労したそうだ。
農園にいた人たちだから、農業の手伝いでもしているのだろうか?そんなふうに思っていたB氏のもとに、再び質入れの申し入れがあった。


今度は一族の息子さん2人が来店。お愛想で「お元気でしたか」と声をかけると、インド映画に出てきそうな、歯が真っ白な美丈夫たちはにっこりと笑い、「工場を始めて、だいぶうまくいっています。拡大しようと思っています」と流ちょうな日本語で答えてくれた。
海を越え、知らない土地に全財産を持って飛び込む。その思い切りの良さに、B氏は自分と比べて少し凹んでしまったという。
でも、私は思うのだ。人は人、自分は自分。嫉妬をする人は成長すると聞くけれど、そんなに疲れる人生はごめんだ。マイペースが一番だ。

日本に生まれて、戦争もなく、なんとか飯も食えている。風呂にも毎日入れるし、住むところもある。特に困っていることはないのだから、悲しむことはないのではないか。

スリランカの人たちにしたって、好きで国を出る人はいないだろう。命の危険があるからこそ、知らない土地に飛び込むしかなかったのだ。生きるために。
凹めるのは、平和の証拠だ。頑張っていないわけじゃない。体が丈夫なら、いくらでも好きなことを、今からでも死ぬ気でやればいい。


正論を言われても、凹んでいるときはただ耳に痛いだけ。だから、凹むときはどんどん凹めばいい。中学生のときの恩師が言っていた。「底までいけば、あとは上がるしかない」と。何事にも限界があるのだ。
外から来た人たちは、いろんな風を運んできてくれる。この出会いも、気づきも、小さな嫉妬ですら、平和があってこそのものだ。


たんたんと生きていてつまらないと思っているあなたが、この平和の一端を守っている。卑下することなど、なにもない。胸を張っていこうではないか。

 

それにしてもスリランカ占星術か……。アジアの占いとの違いをちょっと知りたくなってきた。

…続く