査定とは…その9
毎日いろんな人がいらっしゃるので、退屈している暇はないですよ、と質屋店員のAさんは語る。
品物を持ってくるというよりも、「それぞれの事情」を小袋に詰めて差し出すようなものだ。
たとえば、何度も来店している常連さん。
「今日は出るといいなあ。」とこれから行くパチンコのことを軽く前置きしながら、気さくに世間話を交えつつ、いつもの時計を差し出す。品物の状態も良く、取引もスムーズ。だがその奥に、「生活の習慣としての査定」がにじむ瞬間もある。
「行ってらっしゃい。」と笑顔で送り出す時も。
一方で、道すがらふらりと入ってくる飛び込み型の人もいる。
査定だけだが、いい値が付けば置いていく、というそぶりを見せてくる。「ちょっと見てもらえます?」という軽い口調に対し、こちらは計量器とルーペの準備を抜かりなくする。期待されていないようで、妙に試されているような気もする。
そして、時折現れるのが交渉型の比較武装タイプ。
スマホに他店の査定履歴やフリマ価格のスクショを並べ、こちらの顔色をじっと伺ってくる。「〇〇さんでは3万って言われたんですけどね…」と静かに揺さぶってくる。そう、その「〇〇」がこちらではないことは、わかっている。この揺さぶりだが、あまりやりすぎると査定側の空気が変わるらしく、額が下がることもあるという。査定する方も感情のある人間であるということを頭に入れておこう。
また、あまり口を開かないのに空気がやたら重たい、場を揺らすような人もいる。
査定前は穏やかでも、金額が出たとたん声のトーンが変わることがある。「これ、ホントに動かしてないですよね?」言葉よりも、「何を引き出したいのか」という空気に緊張が走る。だがこちらも慣れたもので、静かに記録の存在を伝える。それ以上、広がらないように。
少し印象が違うのが、物語を持ち込むタイプだ。
「これは父の形見で…でももう使わないので…」と、思い出ごと品物を託すように置いていく人。値段の説明よりも、聞くことが求められているような時間になることもある。品物と気持ち、どちらが重たいのだろう。
その反対に、「未使用です」と堂々と差し出される商品に、うっすらついた手の跡、香水の匂いや汚れが残っていることもある。軽めの申告ズレとでも言おうか。「一度だけ使ったんですけどね、ほぼ新品で」という言葉に対しては、やさしく笑っておくのが一番だ。
査定人はだてに日々、何百点も見ているわけではない。ウソが悪いというより、通じない小芝居ほど切ないものはない。
最後に、ときどき心が揺れるのが、売った品をやっぱり返してほしいという人だ。
査定から日が経ち、ふと戻ってきたその手にはなにもない。「あのときのバッグ、まだありますか?」と聞く声には、後悔なのか寂しさなのか、感情の輪郭がくっきり浮かぶ。でも一度成立した契約は戻せない。 大切なものは、持ってきてはいけない。 ……だが人は、そういうものこそ持ってきてしまうのかもしれない。
こんなふうに、カウンターには今日も人が訪れる。
今回と内容が被るかもしれないが、次回はちょっと困ったお客を書いていこうかと思う。