ロシアのダンサー
ポールダンサーのヤスミナ(仮名)さんは、20代のときに出国して来日し、今や全国を渡り歩くダンサーだという。ロシア出身。長い髪と、ダンサー特有の無駄のない肢体で、いつも金を買いに来ては、たまに預けていく。
ウクライナもそうだが、オリエンタルな面持ちのロシア美人で、高身長。ショーは見たことがないが、ただそこにいるだけで絵になるという。もう初老だそうだが、見た目の年齢が若すぎるとB氏は語っていた。見てみたいものだ。
北欧の金細工はアジアのものとはまた趣が異なるという。亀や蛇が好まれるアジアに対し、北欧では鳥や魚、鹿などがモチーフに多いらしい。可愛らしいので、今どきの若い日本人女性にも人気だそうな。
日本語は長くいる割にはまだまだで、日本人のパートナーはいないようだ。子どもでもいれば、日本語は話さずにはいられないので、上達するのかもしれない。そんなヤスミナさんが売っていくものには、いろいろな品があったが、印象に残っているのは、ものすごく大きな金のロザリオネックレスだったという。
「どう見ても男性しかつけられないサイズだったので、親御さんのかと思ったんですが……まあ、お客さんの事情に踏み込むのはいけないですからね。すみやかに処理させていただきました。」
ヤスミナさんは高給取りだったようで、タワマン住まい。送迎で質屋に来ることも珍しくなかったが、高給取りなのになぜ借金を?とも思う。B氏によれば、
「好みの男性に貢いでいたようですけど、貯金は使いたくないようで、チップ代わりにもらったものをお金にして、それを彼に渡していたようですね。」
とのこと。計画的にヒモを飼っていたようだ。
そんなヤスミナさんの使い走りらしい男性が、ある時やってきて、代理で全ての品物を清算して受け出していった。いろいろな人がいるのが世の常ではあるが、B氏は少々心配したという。中には、質入れした人間を脅してサインをさせ、その上、受け出す金も巻き上げたうえで、品物を持ち去る者もいなくはない。彼女の品は高級品ばかり。けれど代理人にサインもあるので、そのまま品物は出されていった。
それからしばらくして、2年ほど姿を見せなかったヤスミナさんが、身なりもスマートな40〜50代の日本人男性と、店に子連れで入ってきたという。
華麗なる転身……というのも、「40代で妊娠していたとは思えない体のライン!」と女性社員が驚愕していたのを思い出すとか(身分証を見ているので、店員には歳がバレている)。
ヤスミナさんは結婚して、もう住所が変わっていた。かわいい赤ちゃんを授かり、優しそうな男性とすっかり落ち着く家庭を築いていたのようだ。この時は金のブローチをお買い上げだったとか。
前の彼?のことは、ここだけの秘密である。
ところで、ふと気になってB氏に尋ねてみた。彼女がポールダンサーだと、どうしてわかったのかと。ダンサーといってもいろいろあるはずだ。
「彼女、支払いは全部千円札なんですよ。たぶんチップじゃないですかね。日本でチップ文化のあるダンサーって、あまりいないですし。」
なるほど、と納得する。そして、もうひとつの手がかりもあった。職業欄に書かれていた「пилон」という単語。調べてみれば、それはロシア語で「ポール」を意味する言葉だった。つまり、特に深読みするような話ではなかった。ただ、そう書かれていただけのことだった。
どんな紆余曲折を経て日本へと渡り、ダンサーになって踊ってきたのだろう。国に帰ることはなかったのかどうなのか。けれど、私たちに同情するような隙を、彼女たちは与えてはくれない。顔を向けるのは前だけ。強くはないのだろうが、折れない心はとても美しい。
それにくらべて、男は折れやすいよなあ……と、腕の中の女子猫をなでながら、独りごちた。